お坊さん数珠つなぎ

WEBサイト編集委員会の島田希保がインタビュアーとなり、
高知県南国市にあります禅師峰寺住職の川口秀徳師にお話をお伺いしました。

第9回 お坊さん数珠つなぎ 川口秀徳師

川口秀徳(かわぐち しゅうとく)師

禅師峰寺(ぜんじぶじ)御住職

四国霊場第三十二番札所(高知県南国市)

お寺の紹介

島 田

いわずと知れた土佐の霊場ですね。

川 口

平成16年は四国霊場開創1200年で、その記念事業として、記念印と記念御影の配布が昨日(平成25年12月15日)から始まったね。でも、まだそれを知らんお遍路さんも多い。御影を見て、「あれ?もう始まったの?」なんていう人もおる。これは宣伝不足やね。

島 田

これから盛り上がっていくところなんでしょうね。
禅師峰寺さんは真言宗豊山派のお寺なのに、「禅」の字が入っていますよね。禅宗と何か関わりがあるんですか?

川 口

いや、そういうことではないで。
これは、高僧とか、弟子を育てる僧侶という意味の「禅師」、香港映画とかに出てくる「○○禅師」と同じ意味やね。禅師といわれる方がよくお参りに来られた峰のお寺、ということがお寺の名前の由来になっているのかもしれない。
みなさんからは、「峰寺(みねじ)さん」とか「みねんじさん」というように、愛称で呼んでもらうことが多いかな。

島 田

こちらのお寺は行基さんによって建立されたと伺いましたが。

川 口

そう。ここに行基さんがお堂を建てたのがはじまり。お寺と海が近いき、海の安全を願って建てたと伝わっているんだ。そこへお大師さんがいらして、ご本尊の十一面観音さまを彫られたんやそうです。
この観音さまは、「船魂(ふなだま)観音」。漁業関係のみなさんの海での無事を祈るようになって、こう呼ばれるようになったんやろうね。船魂が船を守ってくれるという信仰が昔からあって、土佐藩主も航海に出る前に祈願したそうです。その時の木札がうちの末寺に納められていたと聞いているからね。今はもうないみたいやけど。
今でも、海に携わる方たちがお参りにきてくれるで。お祭りのときなんかは特に。

境内を見ると、岩がたくさんあるやろ?もともとはどれも、海にあった岩なんだよ。お寺は、今でこそ標高82メートルの高さにあるけど、昔は海の底だったといわれているんだ。

島 田

海と縁の深いお寺さんなんですね。

ご本堂

お坊さんになったきっかけ

川 口

お寺に生まれたということがひとつ。もうひとつは、先々代にあたる祖父から、僧侶の資格くらいは取ってもらいたいと言われたことかな。それで大正大学に進んだ。
僕が学生だった頃は道心寮という寮(※1)があった。たしか私で9期生やったような。それで、同じ学年の豊山派の仲間たちで宝珠会という会があって、なずけ親は当時寮監の塚原海順先生やった。私たちの為につけてくれた名前で、これは宝珠とは宝の玉の意味があり友達を宝と思いなさい、との思いがこめられていて、今でも時々集まりゆうよ。お世話になった先生に会いに行ったりもするで。
男女合わせて31~2人くらい。個性的な人が多いがよ(笑)

島 田

寮というと、厳しそうなイメージがあります。

川 口

あまり大変だった思い出はないなあ。正座の時間はつらかったけど、でもみんな一緒やき、おもしろかったよ。週末は、関東近辺の人は実家に帰るから、地方組は地方組でかたまって遊んで、楽しかったな。この寮生活があったき、良かったんやと思う。

※1 寮……以前、大正大学にあった寮。当時、僧階を取得しようとする学生は、1年次の1年間、入寮する決まりだった。学生を指導する「寮監」という先生もいた。

境内から

休日の過ごし方

川 口

趣味は一人旅行かな。海外の寺院仏閣や世界遺産を巡るのが好きやね。東南アジア方面にはよく行った。ただ、インドは一人ではよう行かんき、グループでね。中国では、赤岸鎮(せきがんちん)からずっと上へ行ったところにある、お大師さんが立ち寄ったとされるお寺さんをいくつか見てきたよ。ちゃんとお大師さんの像があったで。

島 田

お坊さんとしておすすめの場所はありますか?

川 口

インドはもちろんやけど、中国の四大仏教名山は良かったで。文殊さんの霊場の五台山、普賢さんの峨眉山、地蔵さんの九華山、観音さんの普陀山ね。まだ五台山だけは行ってないけど…。どこも、信者さんが熱心にお参りしゆうがですよ。日本でも中国でもどの国でも、熱心な信者さんはおるんやね。

そうだ、昔の話やけど、大学を卒業したあとに20日間くらい、一人でイタリアに行ってきた。1990年で、サッカーのワールドカップがイタリアで開催されたんだよ。それを見に行った!そのために、アルバイトをして旅行費を貯めたな(笑)

サッカーが好きやき、学生で東京におったときは友達と試合をよく見に行った。僕らが学生の時はまだJリーグができる前やったき、ワールドカップの予選会場なんかは、マニアックなサッカーファンしか来んかった(笑)

土佐に帰ってきてからも、友達とサッカーチームを作って活動しよったよ。僕、中学高校時代はサッカー部やったき。40歳以上になると、マスターリーグや壮年リーグというのがあって、一年を通じて何試合かある。去年までは「みねんじチーム」があったで。今は合併しちゃったけどね。

島 田

お寺の名前が入ったチーム名、かっこいいですね!

川 口

えいやろ!新聞にちょいちょい載せてもらったりしよったで。
最近は地元のサッカー関係の協賛金にも協力させてもらいゆうね。

鐘楼堂

力を入れている活動

川 口

サッカー関係だけでなく、地区の敬老会や地域に関わるイベントには協力させてもらいゆう。

それから、今はやっぱり四国霊場開創1200年記念事業やね。四国八十八ケ所霊場会というのが四国にはあって、その青年部と先達(せんだつ)さんで、四国霊場を少しずつ歩きゆうんですよ。

僕は、歩いてまわるのは初めて。以前、豊山仏青の40周年記念事業でお大師さんを背負って少しだけ歩いたことがあるけど、一部分だけだったから。経験してみないとわからんことはいっぱいある。足の痛みとかね(笑)足の痛み、マメの痛みは、歩いたことのある人にしかわからん。歩くことのつらさ、水のありがたさ、自然の力。こういったものを実感できるのが、徒歩遍路の醍醐味やね。

檀信徒のみなさんへの布教も、力を入れています。一緒にお四国をまわったりしゆうよ。
もちろん、お話しもする。お話していると、よく質問が飛んでくるんです。多いのは、札所にまつわる質問。土地柄やろうかねえ。

島 田

親しみやすいお人柄が出ているんですね。そして、川口さんは保護司もされていると聞きましたが。

川 口

そう。悪いことをして裁判にかけられて、そこで保護観察処分になった人を見守る役やね。保護観察中の人と話す時には、僕から話すんじゃなくて、相手が話し始めるのを待つようにしてる。特別なことは何もない、みんな普通の人やき。

境内の様子

楽しかったこと・つらかったこと

川 口

葬儀で、自分より年下の方を拝むのはつらいよね。それから、同級生も。親御さんのことも知っているし、つい感情がこみあげてもらい泣きしそうになった。あれはつらかった。

島 田

お坊さんをやっていてよかったことはありましたか?

川 口

自分がお経をあげることで感謝されると、よかったなと思う。感動して泣いてくれるおじいちゃんおばあちゃんがおるんですよ。

うちは駐車場から本堂まで、結構な坂を上がらないといけない。それでもおじいちゃんおばあちゃんに限らず、檀信徒の方はよう来てくれます。ありがたい。

お坊さんて、いろんな人と知り合う機会が多いき、それもいい。霊場会の仕事では、なかなか接点のない人とも会えるし。大学の時の寮生活も、仲間と出会えたから楽しく過ごせたしね。その時の縁で、海外の声明公演にも参加させてもらったよ。

インタビューの様子

座右の銘

川 口

土佐弁で『なんとかなるき』。
何かをしてないとなんとかならんき、何もしなかったらなんにもならんということ。動く事が大事ってことよね。

島 田

何もしなくてもなんとかなるでしょ、という意味ではなくて、自分が行動する事によって状況も動いていくだろうということですね。

川 口

そう。まずは動く事。中学時代のサッカー部の監督さんがね、「走ったらなんとかならーや」「まず動けや。動いたらなんとかなるき」ってよく指導してくれたのを覚えている。動け、動かんとボールは来んぞ、ってね。なんちゃー知らん状態で大学の寮に入ってもなんとかなったのは、この言葉のおかげ。自分がよう出来んでも、とにかく動いていれば、後ろから誰かが押してくれるろう。

同行二人、いつもお大師さまが後ろだったり、前だったり、横だったりにいてくださる。何か行動をおこせば、お大師さまがいつも見守ってくれている。だから、『なんとかなるき』。
でも行動する前に、まずは発心。ただむちゃくちゃに動いても駄目やき。心を動かしてからね。

「なんとかなる」

仏青の皆さんへ

川 口

「やれるときにやっちょけよ!」と声を大にして伝えたい。仏青を卒業すると、してみたい事に挑戦する機会が少なくなるからね。

そして、各地区の仏青同士でどんどん交流を持ってほしい。この辺りでは、高知仏青と隣の愛媛仏青さんとで交流会をしゆうね。そういう場があると、地方の仏青のあり方とかの、意見交換も出来るしね。
今のうちに、いろんなことを経験しておいた方がいいと思う。青年会で失敗しても、ある程度はえいんやから。ヘマしてもえいんやない?僕ら、失敗だらけやったで。それでも、心を動かして行動して欲しい。楽しんでね。楽しくないと嫌やろ。仏青は、勉強になる事がたくさんあるよ。

インタビューを終えて

島 田

そういえば川口さん、独身ですよね?

川 口

え?ううう……うん。

島 田

どんな女性がタイプなんですか?

川 口

明るくてお話しが好きな人はいいですよね。それから、一緒に旅行に行ってくれる人!

島 田

いいですね。えー、ただいま、禅師峰寺の御住職さまが良い方を募集中でございます!

川 口

四国霊場1200年開創記念、裏事業です(笑)

川 口

島 田

よろしくお願いします!!

川口師(右)と島田委員(左)


川口秀徳師の心地よい土佐弁で、親しみやすいお人柄が伝わったかと思います。四国霊場開創1200年事業の真っただ中のお忙しい時期に快くインタビューを受けていただき、誠にありがとうございました。