法話

運が悪い

新田瑞寿 遍照院副住職(愛媛県今治市)/愛媛仏青会員

プレゼント好きの友人がいます。それも、人に渡すほうが好きなのです。
先日もある先輩に渡すべく、プレゼントの計画をたてていました。ところが、この行動が思わぬ展開を巻き起こし、事態が二転三転していったのです。今回はその話を紹介いたします。

彼の先輩は舞台関係者で、誕生日の前日まで演劇の公演があったそうです。私の友人も、誕生日の数日前に観劇予定があったので、その際にプレゼントを渡す計画でした。友人は、ちょっとナルシストな男でして、どうやって格好よく渡すかをこと細かく考えていたようです。

考え抜いた挙句、友人は、受付の係の人に「○○さんに渡してください」と伝言することにしました。一ファンをよそおい、贈り物を届ける計画です。そうすれば閉演後、先輩はファンからのプレゼントとして中身を確認します。すると、友人からの誕生日プレゼントが現れる。なんとも格好つけの友人らしい作戦です。

しかし、この計画はある理由から頓挫しました。舞台公演が始まる前日、先輩から友人へ連絡が入りました。公演スタッフが足りず、人員が欲しいとのことでした。プレゼントをしようとした友人は、先輩を助けるために受付係となり、プレゼントどころではなくなったのでした。

第1の計画が頓挫した友人は、第2のプレゼント大作戦をたてました。
公演の最終日、つまり先輩の誕生日前日に、うち上げの酒宴があるという情報をつかんだ友人は、その席で直接渡すことにしたのです。やり方は平凡ですが、作戦決行日が誕生日の前日であり、その方が喜ぶと考えたわけです。問題は酒宴の会場で2人の席が離れることでした。
友人はいわば部外者ですが、先輩は関係者、それも演劇公演の中心人物です。席が近くなることはまずないでしょう。それゆえに頃合を見計らって、席替えに講じなければならないと友人は考えました。

ところがこれもまた頓挫しました。予想通り席は離れたそうですが、問題は近づく機会が得られなかったのです。
というのも酒宴が始まるとすぐ、関係者の労をねぎらい、1人1人に大入り袋が渡されるという律儀なイベントが始まったからです。1人ずつ名前を呼びあげて、ねぎらいの言葉をかけ、そのたびに皆の拍手がある。そんな丁寧な渡し方だったのです。公演をとりしきっていた代表の方のお人柄が、あまりに素晴らしいのです。そのため渡す作業に時間がかかり、大入り袋は、用意していた半分も渡らないまま、友人の終電時間が迫ったそうです。

先輩は関係者として朝まで打ち上げの席に残ります。しかし友人は、次の日に用事があることから帰る必要がありました。皆が盛り上がる中、1人席替えをしてプレゼントを渡すことなど、会場の空気が許すはずありません。帰り際、「お疲れ様でした。」と先輩へ挨拶して、その際にさっと渡せるかどうかも怪しい状況でした。

ところが急にプレゼントを渡す意欲が出てきました。というのも会場を午前0時に出ても終電に乗れると気づいたからです。午前0時は、先輩が誕生日を迎える瞬間。そのときにさっと渡せば、一番ドラマチックだと、彼は1人興奮したのでした。かくして時計の長針が、午前0時を指した瞬間、プレゼント大作戦を決行しました。

結果、無事に作戦は成功し、友人は満足したとのことでした。また、公演のお手伝いをしたことで、アルバイト料も出たそうです。ところがまたもや友人に問題が降りかかりました。そのアルバイト料は、公演の制作者からは出せないとのことでした。
そこで律儀な先輩がポケットマネーからアルバイト料を捻出することになりました。

というわけで、友人が痛みを負ったプレゼントの代金は、プレゼントを渡された人間を通過して、ふたたび手元へと返ってくることになったのです。友人の格好つけた作戦は、最後まで格好悪く幕を閉じることになったのです。

しかし、よいではありませんか。人間のつながりは支えあいです。
自分の気持ちが相手を通じてふたたび戻ってくる。
それでも明らかなのは、その先輩がプレゼントを喜んでくれたということですよ。