法話

子どもの日

横田弘明 不動寺副住職(福島県福島市)/福島1号仏青

5月という時節を考えたとき、私の頭に浮かんできたのは…まず柏餅、そして次に鯉のぼりでありました。ここで一番に、総本山長谷寺の牡丹が色とりどりに咲き誇り境内がより明るくなる時期、とか、ご本尊十一面観世音菩薩さまの特別拝観でおみ足に直接触れてご縁を結べる有り難い時期、なんて浮かんでくれればこのあとの法話にも入りやすくなったのですが…頭の中はまだまだ子どもの日から卒業できていないようです。

この子どもの日、祝日法2条によると「こどもの人格を重んじ こどもの幸福をはかるとともに 母に感謝する」とあります。子どもの日というのは、子どもと母の日だなんて、初めて知りました。

主に小学校4年生から中学校3年生までを対象に、総本山長谷寺をはじめ、全国の豊山派の寺院では、青少年研修会というものを開催しています。研修のテーマは「育てます仏心」。この研修会ではお寺で共同生活をし、仏教行事に触れ、簡単な仏具を制作するなどして過ごします。研修会の最後には、御山主より潅頂(かんじょう)といい、仏さまより智慧のみずを頭上にいただき、心のなかにみなが備え持つ仏さまの心が大きく育つよう祈念されます。

昨年の研修会の感想文集より、参加した研修生の一文に、ハッと気付かされたものがありました。

(長谷寺のご本尊十一面観世音菩薩さまのおみ足に触れ)
「何か、心の中の悪いものを吸い取ってもらっている気がしました。」(小5・男)

この一文を読んで、子どもたちは自分自身の想いで仏さまに祈っていること、私自身はいつの間にか仏さまに求めることが多くなっていたこと、この2つを深く考えさせられました。この研修生のように素直でいるだけで、観音さまと心が通い合い、抜苦与楽という慈悲のお力を感じることができるのです。私たちも、仏さまよりお力をいただくばかりでなく、感謝の気持ちを添えて手を合わせられたら素敵なことですね。

真言宗の開祖、お大師さまが、甥でありまた弟子であった智泉法師にお贈りになられたお言葉で、わたしたちも忘れずにいたいものがあります。

「阿字のこが 阿字の古里立ち出でて また立ちかえる 阿字の古里」

阿字というのは、大日如来さまの本性を種字という一字で表したもので、宇宙や太陽、連綿と続くいのちの中心という意味が含まれています。

『大日如来さまよりいのちと尊き教えを授かっていた私たちは
仏の世界よりこちらにやってきて またもとの世界へとかえっていく』

ということになりましょうか。大日如来の御手に抱かれているのだからなにも心配はいらないよ、と、お大師さまのお心遣いを感じます。

私たちはみな、大日如来さまの子どもであります。その子どもたちに対して、仏さまたちは多くを求めすぎてもそれに応えてくださるはずです。しかし、忘れずにいたいのは、仏さまは常に私たちのそばにあり、いつも静かに見守ってくださっているということ。私たちはそのお力と慈悲に感謝し、ご恩に報いるように生きていけたら、とても素敵な人生になるのではないでしょうか。

さっそく、私も日頃の感謝の気持ちを込めて、柏餅をご本尊さまと両親に用意したいと思います。