法話

人身受け難し…命はどこから生まれるの?

樺澤賢正 金剛光寺住職(新潟県長岡市)/豊山仏青副会長

現代科学の世界では、人も含めて約200種類の生物の遺伝子暗号の解読が終わっているそうです。日本人になじみの深い「イネ」の研究は、すでに40数年前からアメリカが「国際イネ研究所」をフィリピンにつくり、深刻な世界の食糧危機改善のための取り組みを行っています。
日本人の主食だけでなく世界人口のおよそ半数、約30億人がコメをいただいている現状で、食糧不足を解消するためには必然なことかもしれません。「アメリカがなぜイネに熱心なの?」それは「米国だからです…」
しかしイネの遺伝子の解読については、日本はいま世界の最先端を進んでいるとのこと。稲作は日本文化の遺伝子といっても過言ではないと思っている私は、ホッとしています。

この遺伝子暗号解読の技術は凄いことで、とうてい私のようなオツムではさっぱり分からない話ですが、よく考えると、暗号を読めるということは、読む前にすでに書いてあったということが分かります。いったい誰がこの暗号を書いたのでしょう…?決して親や祖父母といった人間ではないことは確かです。とうてい人間業の及ぶところではありません。
しかもこの暗号は人間の設計図とでもいうべきものらしく、身体の細胞は自身のコピーをつくりながら、他の異なった細胞を助け合い、手をとり合わなければ臓器の働きは成り立たないと言われています。利己的では生きていけないということです。

私たちは、父親と母親からそれぞれ一組の染色体の情報を貰って、一つの受精卵から約38週をかけて細胞分裂を繰り返し、推定60兆個という細胞からなる赤ちゃんとして生まれてくるのです。
お母さんのお腹の中で、胎児はわずか38週間に、38億年の生物進化のドラマを再現しているという話になります。
お母さんの1週間は、胎児の1億年で、もしもお母さんが飲酒して1日酔っ払うと、胎児は1500万年間酔っ払っているわけです。

一人の身体は、地球人口約60億の1万倍の小さな命(細胞)から成り立ち、喧嘩もせずに見事に共生できるのも遺伝子のおかげらしいです。ところが、科学万能の時代といえども、世界の国家予算を全部投入したとしても細胞1個、血液一滴がつくれない現実。先の「遺伝子の暗号を書いたのは誰か?」という疑問が「誰がつくったのか?」ということにもなってきます。

いったい誰なのか…?今日の科学ではとうてい解らない何か偉大な力が存在し、「全ての命の元の親」とでも言うべき働きがあるように思います。それが「大日如来さま」であると言いたいのですが、様々な考えの人がおられるので、これは人類永遠のテーマかもしれません。

こういうことを考えていくと、生きている、生かされているということはただごとではなく、凄いことなのだと気づかされます。考えれば考える(think)ほど、命を授かった有難さ(thank)を感じています。Thankの語源はthinkからきているという説にも納得がいきます。ドイツ語においても同じ説があります。しかも、人間として命を授かるということは奇跡なのです。命の尊さ、ありがたさも自然と分かってくると思います。ところが今の地球では、有史以来人間が戦争を止めたことはなく、戦争でなくても様々な社会問題が次からつぎへと起き、現代社会は「混沌とした世の中」と表現する人もいます。

「子供をつくる」なんて言い方は傲慢。「女性はこどもをつくる○△□…」発言まで出てくる世の中。「自分の命だからどうしようと勝手だ」という人にも、どんな事情があるにせよ「本当に命は自分だけのものなの?」と考え直して欲しい。小さな細胞でさえ、利己的では生きていけないことを知っていて、60兆個もの命が共存共生の精神で私たちの身体を護ってくれているのに、なんで他人をいじめるの?なんで他人の命を奪うの?こんなメッセージを‘命の元の親’が訴えているような気もします。
大日如来さまからのメッセージを伝えるのは、私たち宗教家の役割です。
私も一生懸命、「熱いメッセージ」を少しずつでもいいから伝えていかなければいけないと、自分に言い聞かせています。